王太女お披露目の日程が迫るにつれ、わたしの周りは慌ただしさを増していた。

 お披露目式当日のシナリオを渡され、どんな風に動くのか、誰が何を言うのか、そういうことを頭に叩き込んでいく。傍から見れば自然な流れで執り行われているように思える儀式も、実際には綿密な下準備と入念な打ち合わせによって成り立っているのだ。


「前回の――――クラウス殿下の葬儀がイレギュラーすぎたのですよ。姫様がいらっしゃることを知っていたのは、本当に一部の人間でしたから」


 そう口にするのは、新しくわたしの担当文官になったロナルドだ。
 わたしより一回り年上だけど、童顔で親しみやすい顔をしている。穏やかな風貌をしている割に、実は切れ者らしい。彼はお父さんの側で政務を学んでいたらしく、経験の浅いわたしのフォローをするため、今回側近候補に選ばれた。

 ロナルド以外にも、ベテランの中から数人、今後の王政を支える人材が選ばれ、わたしの担当文官として宛がわれている。年上ばかりではやりづらかろうと、同年代からも幾人かは選出された。

 なお、わたしの担当文官達にはそれぞれ別の担当文官が付き、仕事のサポートをしてもらうらしい。元が素人のわたしからすれば変に思うけど、そういうものなんだそうだ。


 それから、アダルフォ以外の騎士も数名増員された。彼等はいざという時の伝令役も兼ねているらしい。身辺警護のためというより、公務のやりやすさを重視された形だ。


(わたし、本当に王太女になるんだなぁ)


 実感がなかったわけじゃない。だけど、これまでよりもずっと強く、リアルに感じられる。『公務』の二文字が重く圧し掛かり、緊張と興奮で背筋がビリビリと震えてくる。