「貴族と平民では金銭感覚が違うのよ。民の生活はカツカツで、食べるのがやっとっていう人も多いわ。税が上がったら、今まで購入できていた何かを諦めなきゃいけなくなる人もいると思う」


 これでもわたしは平民出身。そんじょそこらの貴族とは違う。市場価格とか民の声って奴にはかなり敏感だと思う。

 幸いにも、我が国は平和で、良くも悪くも安定している。
 それでも、今税率なんてあげたら、間違いなく反発が起きる。その前に出来ることがあるだろう、って言われてしまう。
 仮にも平民出身のわたしが王太女になろうとしているんだもの。それだけは絶対に避けたい。


「それでも、どうしても上げなければならないというなら、貴族にだけ重い税を課してみる?」

「……いえ、そういう訳にはいかないかと」


 バルデマーの返事は歯切れが悪い。貴族達を敵に回すと大変だって知っているからだろう。わたし自身今はやるつもりないし、ね。


 因みに、おじいちゃんが一方的に送りつけていたわたしの養育費について、両親は一切手を付けていなかった。お父さんの宝石商としての収入だけで、生活の全てを賄っていたのだ。


『当たり前よ。だって、自分の娘を育てるために余所からお金を貰うなんておかしいじゃない?』


 二人はそんなことを口にして朗らかに微笑む。

 気になって確認してみたら、養育費は相当な金額だった。普通なら、ついつい(というか普通に)使いたくなる額なのに、本当にすごいと思う。
 貧乏でもなければ特別裕福ってわけでもない。締める所は締め、使うべきところは使い――――我が両親ながら誇らしい。あの家で育てられて良かったと心から思った。