「姫様!? まさか、本当にこんな女たらしに誑かされてしまったのですか? この男を貴方の夫にするおつもりなのですか!?」


 唖然とした様子のバルデマーに、わたしは内心冷や冷やする。『そうです!』って宣言出来たら楽だけど、今は絶対、そうと悟られちゃいけないタイミングだ。頭に血が上っているし、厄介な未来しか見えないもの。


「わたしはただ、機会は平等に与えるべきだと思っているだけよ。貴方とはこれから時間を共にするのでしょう? それなのに、ランハートには認めないんじゃ公平じゃないもの」


 イエスともノーとも言わない。これが政治における非常に大事なスキルらしい。
 けれど、バルデマーは微かに眉間に皺を寄せ、小さく首を横に振った。


「――――それを言うなら、最初からフェアじゃありませんよね? だって、そこに居るアダルフォはいつも、姫様と一緒に居るのですから」

「えっ、アダルフォ?」


 まさかのセリフに、わたしは思わず目を見開く。あまりにも子供じみている――――だけど、多分これがバルデマーの本心なんだろうなぁ。


「そんなの、護衛騎士だもの。当たり前でしょう?」


 わたしの言葉にアダルフォが頷き、庇うようにして前に立つ。