とはいえ、そこまで大変な事態に陥らないだろうとわたしは高を括っていた。

 だって、アダルフォはいつも一緒に居るけど、基本無口で、積極的に何かを尋ねることは少ないし。俺が俺が、って感じでもないから、わたしさえ黙っていたらそれで良い。

 バルデマーやランハートは神出鬼没だけど、多分きっと何とかなる。
 何とか――――全員が一同に会したりしない限りは。


(何で! どうしてこうなるの!?)


 ピリピリと張り詰めた空気に息を呑む。
 今、わたしの私室には、バルデマーとランハート、それからアダルフォが揃い踏みだ。引き攣った笑みしか浮かべられないわたしを余所に、バルデマーとランハートは満面の笑みを浮かべ、互いを見つめ合っている。


(何でそんなにバチバチなのよ……って、王配の地位を争ってるもの同士だから仕方ないんだろうけど!)


 人間、怒り顔よりも笑っている時の方が余程怖い。裏があるって分かっている時は余計に。
 通常運転のアダルフォだけが、今のわたしの救いだった。
 

「随分と早い登城ですね、ランハート様。怠け者のあなたは、いつも遅い時間にしかいらっしゃらないので、鉢合わせするとは思いませんでしたよ」


 爽やかな王子様スマイルを浮かべつつ、バルデマーが毒を吐く。
 怖い。率直に言って、物凄く怖い。
 そりゃあ宮廷人だから、嫌味の一つ二つサラリと言えるようにならなきゃいけない(らしい)けど、普段の人畜無害で優し気な印象とのギャップが大きすぎて震えてしまう。


「お褒めに預かり光栄ですよ、バルデマー」


 対するランハートは、全く意に介さない様子で、いと優雅に微笑んでいる。嫌味を返すつもりすらないらしい。
 余裕だ――――それだけに、余計バルデマーを苛立たせてしまった。バルデマーは静かに目を伏せたかと思うと、少しだけ眉間に皺を寄せる。