人払いをし、二人きりになったおじいちゃんの執務室。元々重厚な雰囲気の部屋だけど、今日はいつもよりも空気が張り詰めているように感じる。
 顔を見るなりわたしが何を話をしたいか分かったらしい。おじいちゃんは神妙な顔つきをした。


「それで、誰を選ぶことにしたんだ?」


 単刀直入すぎて情緒もへったくれもないけど、無駄なことが嫌いなおじいちゃんらしい。わたしは深呼吸を一つ、おじいちゃんを真っ直ぐに見つめた。


「ランハートを」


 端的に答えれば、おじいちゃんは眉一つ動かすことなく「そうか」とそう口にする。


「私の挙げた候補者だ。誰を選んでも異論はない。ゼルリダも同様だろう」

「うん。わたしもそう思う」


 元よりゼルリダ様は王太子としてランハートを推していたんだもの。反対されるとは思っていない。どんな反応をするかは未知数だけど。


「それで、選んだ後は? どうしたら良いの?」


 王太女のお披露目まであと数日。当日は大きな式典が催され、国内外からたくさんのお客様をお迎えする。
 その時に、婚約者を発表するっていうのが、おじいちゃんとわたしが描いていた理想の形だ。

 とはいえ、当日、その場で知らされるんじゃ心の準備もできないし、本人達にも事前に意向を伝えるべきなんだろうなぁって思っていたのだけど。


「いや。今しばらくは様子を見る。明言してしまっては、後戻りが出来ない。不測の事態に備えた方が良かろう」

「そうだね……分かった。それじゃあわたしは、これまで通りに振る舞うようにするね」


 周りからしたら、早めに情報が欲しいだろうけど、事は国の未来が掛かる重要事項。慎重に慎重を重ねた方が良いっていうおじいちゃんの考えは理解できる。ついさっきまで誰を選ぶか決めかねていたわけだし、ね。