「――――ライラ、この男は我が国の筆頭公爵家の子息でランハートという名だ。今後、よく会うことになるだろうから、おまえも名前と顔をしっかり覚えておくように」


 わたしの疑問に答えるように、おじいちゃんはそっと耳打ちする。公爵とか言われても正直よく分からないし、わたしは取り敢えず頷いておいた。


(まぁ……わたしに今後は無いんだけど)


 だって、これが終わったら家に帰るんだもの。お父さんとお母さんがきっと、わたしのことを心配しながら待っている。早く二人の顔を見て安心したい――――安心させたいと心から思った。


「ランハート、この子は私の孫、ライラだ。可愛いだろう?」


 その時、おじいちゃんの声がわたしの意識を呼び戻した。ランハートって人はほんのりと目を見開き、それからとびっきりの笑顔を浮かべる。


「なるほど……そうじゃないかと思ってましたが――――いや、本当に可愛らしい。クラウス殿下に生き写しでいらっしゃいますね」


 イケメンっていうのは声まで甘くなるものらしい。声音で頭を撫でられているようだった。経験したことないような奇妙な感覚に、わたしは小さく身震いする。


「そうだろう? 本当ならもっと早くに迎え入れたかったのだが、色々と差し障りがあったからな」

「――――――――――――なるほど」


 含みを持たせたおじいちゃんの言葉に、ランハートって人はチラリと別のとこかへ視線を遣る。わたしも一緒になって視線を動かすと、そこにはゼルリダ様の姿があった。