「貴族や王族の結婚というのは、本当にややこしく、面倒なものですわね。ただ『好き』なだけでは結ばれることが出来ませんもの。もちろん、相手が自分のことを好きになってくれるとも限りませんし」


 どこか寂し気な表情。美しい横顔が憂いを帯び、こちらの胸まで苦しくなる。


「わたしね、初めてシルビアに会った時、アダルフォとお似合いだなぁって思っていたの。仲が良いし、何だか互いを想い合っているように見えて。家格的にもつり合っているのかなぁって」


 本当は今でもそう。二人は波長が合っているというか、見ていて微笑ましいし、すごく似合っているように思う。


「ありがとうございます。けれど、私には他に想い人が居るのですわ。キッパリ振られましたし、叶わぬ恋だと分かっているのですが……今でも忘れられなくて」


 やっぱり――――そう思わずにはいられなかった。


「ランハートなんでしょう?」


 問いかけに、シルビアが静かに頷く。彼女の瞳には薄っすら涙が浮かんでいた。


「どうしてなんでしょうね、姫様? どうして私は、あんなにも意地悪で、優しさの欠片もなくて、たくさんの女性に囲まれているランハートが良いんでしょう? 嫌いなはずなのに。大嫌いな筈なのに。どうして私は、あんな人を好きになったんだろうって……」


 シルビアもきっと、わたしと同じ。誰かに話を聞いて欲しかったんだと思う。苦しい恋心を身の内に隠して、だけど自分を納得させることも出来ずにいる。


「どうして私じゃダメなんだろうって、ずっとずっと思っているんです。どんなに努力しても、彼は私じゃダメだって……望みがないと分かっているのに、それでも諦めきれずにいるんです」

「うん……」