「ライラ様。王太女となるあなたは、直接的であれ、間接的であれ、これから先恐ろしい程たくさんの人に出会うことになります。
確かに、全ての人に寄り添うことがベストです。あなたが心を寄せることで救われる人も沢山いるでしょう。
だけど、全ての人が満足する政治はあり得ません。人は自分のメリットで動く生き物だからです。一方を立てれば他方が立たず。そういう事は幾らでも存在します」

「……うん」


 ランハートの言う通り。誰もが納得する政策なんて無いって、おじいちゃんも言っていた。
 国王の仕事は『頷くだけ』だなんて言う人も言うけど、たったそれだけの動作に恐ろしい程大きな責任を伴う。
 それだけでも大変なのに、他の人の感情まで背負っていては身体がもたないんだって、わたしだって分かっている。ランハートがわたしのことを心配してくれているんだってことも。


「だけどね、ランハート。それがわたしのやりたいことなんだもの」


 王族として、未来の国王として。わたしがやりたいことは、人やその心に寄り添うことなんだもの。それが一番わたしらしい。今のわたしでも出来ることなんじゃないかって。


「――――そうですか」


 ランハートが呟く。
 もしかして、否定されてしまうだろうか。不安が胸を過る。
 けれど、恐る恐る顔を上げたら、ランハートは目を細めて笑っていた。


「分かりました。それがあなたのやりたいことだと言うなら、思う存分付き合いましょう」

「……え?」


 思わぬ言葉に目を瞠れば、彼はわたしの手を恭しく握った。