「伯母はクラウス殿下との子を産めなかったことに、大きな負い目を感じているんです。妃としての務めを果たせなかったと。その癖、殿下に側妃を勧めることも、離婚を切り出すことも出来なかった。彼女なりに、色々と葛藤しているんだと思います。ですから、ライラ様に対しても複雑な想いを抱えているのでしょう」


 ランハートの言葉に胸が痛む。

 同じ女性。同じ王族。
 だけど、ゼルリダ様とわたしの立場は、似ているようで違っている。

 彼女は妃に選ばれた側。
 対するわたしは選ぶ側だ。

 選ばれたのに――――務めを果たせなかった。
 そんな想いを抱えながら、けれどその場から逃げ出すことも出来ない。批判を聞こえないふりをしながら、前を向き続けることは、どれ程辛いことだろう。
 どれだけ自信があっても――――ううん、自信があったからこそ、苦しいに違いない。

 心が苦しい。ゼルリダ様の悲しみを想うと、涙が込み上げそうになる。


「こら」


 だけど、俯いたわたしの額を、ランハートがピンと弾いた。


「もう! 痛いじゃないっ」


 これでも一応姫君なのに! 唇を尖らせれば、ランハートは声を上げて笑う。


「弾きたくなるような顔をしているライラ様が悪いんです。
全く……人の感情に敏感なのはあなたの良いところですが、吞まれちゃいけません。心臓がいくつあっても足りなくなります」

「それは――――――分かってるけど」


 呟くわたしを、ランハートは真剣な表情で見つめた。