「――――で、どうしてそんなこと気にしてるんだ?」


 しかし、当のエメットは、大分神経が図太い。ちゃっかり本題に戻っているのが腹立たしくて、わたしは彼の脇を軽く小突いた。


「おじいちゃんに言われたの。『求婚はちゃんとさせなさい』って。
だけど、そんなのこちらから強要するものじゃないでしょう? 自発的にしてもらえない時点で『わたしって魅力がないんじゃない?』っていう自虐的な発想に行き着いたというか」


 説明しながら、何だかすごく恥ずかしくなってきた。これじゃ慰めを期待しているみたいじゃない?


「あぁ……なるほどねぇ。
でもさ、おまえにプロポーズするなんて、相手が貴族でもめちゃくちゃハードル高いんじゃない? 我が国唯一の跡取りなんだし、よっぽど自分に自信がないと出来ないっていうか……」

「だよね! そうだよね!」


 さすがエメット。下手に慰めたりしない辺りが最高に良い! もしもここで『ライラは魅力的だよ』なんてお世辞を言われたら立ち直れない所だった。危ない、危ない。


「あっ、だけど、お前の婚約者候補ってバルデマーっていう澄ましたイケメンと、ランハートっていう見た目軽いイケメンだろ? あの二人は自信満々、自分大好きって感じだよな」

「ああ…………うん、そうだね」


 前言撤回。
 傷を激しく抉られてしまった。エメットの言うことが正しいって分かってるからこそ、尚更キツイ。


(やっぱりわたしって、身分だけが取り柄の、魅力ゼロの女なのかな)


 それだって、ある日突然降ってわいたようなものなのに。
 シュンと肩を落としていると、アダルフォがそっと微笑んだ。


「ライラ様、どうか気落ちなさらないでください。あなたはとても魅力的な、素晴らしい女性です」

「アダルフォ……」


 目頭がぐっと熱くなる。彼は穏やかに微笑みつつ、大きくゆっくりと頷いた。