「彼女だけが、私の心の葛藤を分かってくれた。咎めるのではなく『本当はこうお考えなのでしょう?』と優しく尋ねられると、何だか心が救われたような気がしたものだ。
亡くなってからもう二十年。もしも彼女が生きていたら、クラウスもライラも――――苦しむことは無かったのかもしれないな」


 自嘲するように笑うおじいちゃんに、何だか胸が切なくなる。おじいちゃんにとっておばあちゃんはきっと、大事な心の支えだったんだろう。冷徹な国王だって人間なんだと、改めて実感した瞬間だった。


「じゃあ、ゼルリダ様は? 誰が妃に選んだの?」

「九割方私だ。クラウスはお前の母親を――――ペネロペを愛していたからな。妃として相応しい女性ならば誰でも、という心持だった。
もちろん、結婚して以降、クラウスはゼルリダを大切にしていたのだが」

「……そっか」


 おじいちゃんの声音には、どこか悔恨が滲んでいる。


【僕はペネロペを妻にしてあげることが出来なかった。
もしも僕に『誰が妃でも関係ない』と思わせるだけの実力があれば、こんなことにはならなかった筈だ。今頃家族三人で仲良く笑い合って過ごせていたのかもしれない――――そう思うと悔しくて堪らない】


 里帰り中に読んだお父さんの手紙。おじいちゃんも本当は、お父さんの願いを叶えてあげたかったのだろう。
 王族である以上、仕方のないことだった――――そう思いたくて、けれど簡単には割り切れない。わたしがおじいちゃんでも、きっと同じだったと思うから。


「ゼルリダは美しく思慮深い娘だった。他の候補者たちのように前へ出ようとすることもなく、クラウスからの愛情も欲しない。ただ淡々と、妃に相応しい女性であり続ける。野心的な候補者たちの中で一線を画していて、それが却って目を惹いたのだ」


 おじいちゃんは当時を思い出すようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。
 ゼルリダ様が王太子妃に選ばれた理由は、当時の様子を見ていないわたしにもよく分かる。
一番お妃様に相応しい女性を、理性的に選んだんだろうなぁって。