お父さんとお母さんは、微かに涙を浮かべて微笑んでいた。きっと二人は、わたしがどんな決断を下すのか、事前に分かっていたんだと思う。温かくて優しい笑顔。『行っておいで』『頑張っておいで』、って背中を押されている気がする。コクリと力強く頷いて、わたしは再び、おじいちゃんに向き直った。


「戻るわ。両親の夢を、願いを叶えたい。殿下が――お父さんが大切に守って来たものを、今度はわたしが守る。もしかしたらお父さんは『そんなことしなくて良い』って言ってくれるかもしれないけど、それでも」


 きっと、わたしにしか出来ないことが沢山ある。
 これからわたしが行くのは、おじいちゃんにも、お父さんにも進むことの出来ない王道だ。これまでの王者とは全く違う道。後ろ指を指す者もいれば、引き戻そうと手を引く者もいるかもしれない。
 だけど、それでも進むって決めた。これはわたし自身が決めたこと。だからもう、迷いはしない。


 それから数刻、わたしに縋りついたまま、おじいちゃんはその場を動かなかった。小さな小さな啜り泣き。聞こえぬふりをしながら、静かに夜は更けていった。