「馬鹿ね」


 言いながら声が震える。わたしの目の前に跪いたおじいちゃんを抱き締めながら、涙が零れ落ちた。

 おじいちゃんは決して『自分が間違ってる』とは言わない。彼の言葉のその下に、あまりにも沢山の命が掛かっているからだ。
 物事は捉え方を一つ変えるだけで、白にも黒にもなる。
 例えばある視点から見れば間違っていることだとしても、おじいちゃんだけは『それが正しい』って言い続けなければならない。それが為政者。おじいちゃんの選んだ王の道なのだろう。


「わたしね、おじいちゃんのしたこと、全部が全部間違っていたなんて思ってないわ」

「ライラ……」

「そりゃあ、問答無用でお父さんやお母さんと引き離されて、王太女になれって言われて――――嫌じゃなかったって言ったら嘘になる。だけど、国王として、それが最善の道だと判断したっていうのは分かってる。
お父さんやお母さんへの手紙を隠したことだってそう。姫君として相応しい行動じゃないとか、二人を恋しがって逃げ出さないようにとか、理由はちゃんとあるんでしょう?」


 もしもおじいちゃんが迷いや葛藤を見せてくれていたら――――わたしだってもう少し寛容になれたかもしれない。わたしが何より憤っていたのは、『最終的に何を決断したか』ではなく、彼が『わたしの感情に配慮をしてくれなかったこと』なのだから。


「――――――――――――すまなかった、ライラ」


 ポツリと消え入りそうな声で呟かれた言葉。きっと、長い人生の中で数回しか口にしていないのだろう。ぎこちないし、何だかとても不恰好だ。


(人の上に立つものは、簡単に謝罪の言葉を口にしちゃいけない)


 この一言が持つ重みを、嫌っていう程知っている。だからこそ、単純に受け入れるだけで済ましちゃいけない。