陛下は無言のまま、わたしのことを見つめていた。鋭い眼差し。睨んでるって表現の方が正しいかもしれない。凄まじい威圧感に、背筋がビリビリ震える。
 慣れているわたしですらこれだもの。お父さんは見るからに困惑しきっていた。わたしとアダルフォを交互に見つつ、どうしたら良いのか考えあぐねている。


「何をしに来たの?」


 先に口を開いたのはわたしの方だった。出来る限り感情を押し殺し、毅然と陛下を見上げる。


「――――小さな家だな。小さくて、狭い。金銭的援助はしていた筈だが……お前はこんな所で育ったのか」


 静かな声音。眉間にぐっと皺を寄せる。お父さんは青褪めつつ、震えていた。


「――――私はこれまで、間違いを犯したことは無い」


 次の瞬間、わたしは思わず声を上げて笑ってしまった。


「ライラ」


 お父さんがハラハラした表情でわたしを咎める。だけどわたしは、静かに首を横に振った。


「そんなことを言うためにこんな所まで来たの? わざわざ?」


 そこまでして自分の正当性を確かめたいだなんて、あり得ない、なんて愚かなのだろう。完全なる自己満足。そんなものに付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。肩を震わせて笑うわたしを、陛下は無言で見下ろしている。


「こんなことしなくたって、陛下の周りには幾らでも『陛下が正しい』『陛下の仰ることが全てです』って言ってくれる人がいるでしょう?」


 他人の感情を顧みず、独断専行ばかり。そうじゃなかったら、きっと今、わたしはここに居ない。人道に則った助言の出来る人が一人も居ないからこその結果だもの。


「ああ、その通りだ」


 陛下はそう言ってため息を吐いた。わたしも次いで息を吐く。本当に馬鹿馬鹿しくて笑えてしまう。


「だからこそ、ここへ来た」


 思わぬ言葉。見上げたわたしの瞳に、陛下の苦悩の表情が飛び込んで来た。