ポロポロと止め処なく涙が零れ落ちる。胸が熱くて、苦しくて堪らなかった。


(王太子様は――――クラウス殿下は――――紛れもなくわたしのお父さんだった)


 顔も見たことがないだなんて、薄情なことを言い続けていた。知ろうとすらしなかった――――だけどわたしは、そんなお父さんの愛情に救われていた。この十六年間、ずっとずっと。


(ごめんなさい、お父さん……)


 他人扱いして、ごめん。愛情が無いなんて疑って――――亡くなったことを悲しんであげることすらできなくて、本当にごめん。

 どんなに泣いても、この気持ちがお父さんに届くことは無いって知っている。だけどそれでも、枯れてしまうんじゃないかってぐらいに、涙がポロポロと零れ落ちる。


 その時、来客を知らせるベルが鳴り響いた。


「誰でしょう? ……俺が見てきます」


 アダルフォが眉間に皺を寄せて立ち上がる。わたしは小さく首を傾げた。


(本当に誰なんだろう?)


 こんな時間に人が来るのは珍しい。何なら非常識だと言われる時間だ。アダルフォが警戒するのも無理はない。お父さんも彼に続くようにして部屋を出た。


「――――えぇっ!?」


 だけど、それから数秒。お父さんの素っ頓狂な声が聞こえてきて、お母さんと顔を見合わせる。急いで玄関に向かうと、直立不動のアダルフォの後に、来訪者の姿がチラリと見えた。


「アダルフォ? 一体どなた―――――」


 そう言い掛けて、わたしは思わず目を見開く。


「陛下……」


 そこには数週間ぶりに会う祖父――――この国の国王陛下が立っていた。