「初めて自分から、お城での出来事を話してくれたわね」


 お母さんは嬉しそうだった。訳もなく目頭が熱くなって、火にかけたままの鍋に視線を落とした。


「あのね……辛いことばかりじゃなかったよ。色んなことを学べて、楽しかったし、充実してた。
だけど、お父さんとお母さんに会えなくなって、二人からの手紙も届かなくて、物凄く寂しかったの。
それでも、この国のために頑張ろうって――――そうすることにやり甲斐とか生き甲斐みたいなものを感じ始めていたんだと思う」


 ふわりと優しく抱き締められて、わたしは堪らず涙を零す。


「そうね。ライラはとても頑張ったのよね」

「――――――うん」


 決して軽い気持ちで取り組んでいたわけじゃない。王太女としての教育も、王配選びも、全部本気で真剣に取り組んでいた。わたしがこの国を引っ張っていかなきゃいけないって思ったし、そのために頑張ろうって思ってた。

 だからこそ、自分が全部無くなってしまったかのような、そんな感覚に陥っている。馬鹿みたいな話だと思う。あんなに帰りたいって思っていたのに。
 だけど、そんなわたしの気持ちを受け止めてくれる人が居るって事実が、とても嬉しい。


「ねぇ……夕食の後、話をさせてくれる? あなたのもう一人の母親――――お母さんの妹のこと。ライラにきちんと話しておきたいの」


 わたしのことを撫でながら、お母さんは優しく尋ねる。コクリと大きく頷いて、わたしはもう一度、お母さんの胸に飛び込んだ。