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「ライラが手伝ってくれるから、用意がとっても楽だわぁ」


 その日の夕飯時、わたしはお母さんと一緒にキッチンに立っていた。
 お城に居る間は配膳されたものを食べることしかできなかったので、とても嬉しいし楽しい。お母さんみたいに手際良くできないけど、それでも『助かる』って言って貰えるのは有難いことだ。


「……ねえ、お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」

「えーー? ライラもそんなことが聞きたいお年頃なの?」


 わたしの問い掛けに、お母さんは照れくさそうに笑っている。


「好きな人でもできた?」

「ううん。そうじゃないんだけどさ――――最近色んなことが分からなくなってきたんだ。
だって、急に次の王様にならなきゃいけなくなって。そのためにいっぱい勉強して、王配に相応しい男性を見つけなきゃいけなくなって。
だけど、わたしはそういうのを全部捨てて『ただのライラ』に戻って――――――そしたら何だか、元々のわたしが空っぽだったように思えてきちゃったの」


 胸の中に漠然と存在したわだかまりを、ポツリポツリと言葉にすると、お母さんは穏やかに目を細める。