それまでの怒涛の日々が嘘のように、至極ゆっくりと三週間が過ぎた。


(暇だなぁ――――
じゃなかった! 楽しい楽しい。めちゃくちゃ楽しい)


 街はずれの小高い丘でボーっとしつつ、わたしは頭をブンブン振る。
 お母さんが作ってくれた茶菓子をバスケットに詰め、お気に入りの本とティーポットを携え、綺麗な花畑でのんびり過ごす。誰に邪魔されることも無い。絵に描いたみたいな自由な過ごし方だ。楽しくない筈がない。だって、これが城に連れて行かれるまでのわたしの日常だったんだもの。


(お城に居たら、今日は経済学の講義の日かなぁ。それか帝王学? 地理と歴史と外国語の講義も――――――)


 だというのに、気を抜いたら、ついついそんなことを考えてしまう。何かしている、っていうのが常態化してしまったせいで、のんびり過ごすことがとことん下手糞になってしまったらしい。先程から、開いた本を数行読んでは閉じ、お菓子を一口齧っては置き、ボーっとしては本を開き、ということを繰り返している。


「ねえ、アダルフォ。わたしって元々、どんな風に過ごしてたんだっけ?」

「…………実際に見たわけではありませんが、恐らくは、今と同じような過ごし方かと」

「だよねぇ」


 やっていることは前と全く同じ。なのに、感じ方が変わってしまった、っていうのが正直なところ。
 会いたい人にも粗方会って、行きたいところにも行き尽くしたから、何かしていないと時間が勿体ないなぁなんて気分になってしまう。


(どうやって時間潰そう――――)