「陛下なら『放っておけ』と、そう仰ってましたよ?
それに、元々僕は、絶対に王太子になりたくないというわけではありません。この国を愛していますし、いざとなったら、吝かではありません。
第一、以前お伝えしたでしょう? 僕は嘘は吐かないって」


 普段滅多に見られない真剣な表情で、ランハートはこちらを見つめていた。


(本気なの……?)


 居た堪れなくなって、立ち上がれば、彼はふっと目元を緩めた。


「なぁんて、少しはドキドキしました?」


 ランハートはそう言って、ポンポンと幼子をあやすように、わたしの頭を撫でる。


「なっ……!」


 胸のあたりがモヤモヤする。ニコニコと楽し気な笑顔が腹立たしくて、わたしはキュッと唇を引き結んだ。


「――――――してない」

「本当に?」

「してないったらしてない!
っていうか私、今日になってようやく、シルビアの言ってたことがよく分かったわ」

「そうですか。それは光栄です」


 クックッと喉を鳴らして笑うランハートを、心底性格が悪いと思う。


「また会いに来ますよ、ライラ様」

「もう来なくて良い!」


 そんな悪態を吐きつつ、彼が居なくなった後しばらく、その場を動くことが出来なかった。