「良いの? 戻らなくて。わたしが戻らなかったら、ランハートが後継者になれって言われちゃうんじゃない?」

「そうですねぇ……言われちゃうでしょうね」


 ランハートはそう言って窓の外を見遣る。自嘲するかのような表情に、わたしは思わずアダルフォと顔を見合わせた。


「――――わたしを連れ戻しに来たんじゃないの?」

「最初に言ったでしょう? 僕はただ、ライラ様に会いに来ただけだって」


 穏やかな笑み。微かに触れる指先。何故だか身体がブワッて一気に熱くなった。


「なっ……なな! 王太女にならないなら、もうわたしに用はないでしょ?」

「まぁ、バルデマーの方はそうでしょうね」


 しみじみとランハートは呟く。


(じゃあ何? ランハートの方は違うって言いたいわけ?)


 上ってくる熱を、首を横に振って逃しながら、わたしは眉間に皺を寄せた。


「そんなこと言って! 本当は陛下に頼まれたんでしょ? わたしを説得するようにって! それか自分が王太子になりたくないから、そういうこと言ってるんでしょ!?」