「夜会の翌日に、折角ご機嫌伺に行ったのに『姫様はもう居ない』って陛下に言われてしまいましてね。バルデマーが既に王都を出た、とも。
だけど、彼と同じ日に会っても印象に残らないでしょう?
ですから二日程、日を置いて会いに来ることにしたんです。それに、そろそろ姫様も退屈される頃かなぁと思いまして」

「わっ……わたし、もう姫じゃないし。退屈もしてないもの」


 理由は分からないけど、何だか妙に気に食わなくて、わたしは唇を尖らせる。


「ライラ様」


 ずいと顔を寄せられ、わたしは思わず後退る。


(……っていうか、わたしの名前!)


 難なく呼び方を変えられるあたり、やっぱりランハートは女慣れしている。バルデマーはてこでも『姫様』って呼び方を変えなかったし。アダルフォに『ライラ様』って呼ばれた時とは違い、胸のあたりがふわふわして落ち着かない。
 ランハートは戸惑うわたしの様子をたっぷり観察してから、ソファに深く腰掛けなおした。


「――――良いんじゃないですか? 自由も与えられ無いまま、毎日あれだけ酷使されたんです。お疲れでしょう? しばらくはダラダラ過ごしても罰は当たりません」

「……だから! わたしはもう、城には戻らないって」

「それも、別に戻らなくて良いと思いますよ?」

「…………え?」


 それは思わぬ返答だった。