家に戻って三日が経った。
 これまでの忙しさが嘘みたいに、わたしは穏やかな日々を送っている。

 朝はのんびり朝食が出来上がる頃に起き出して、日中は街やエメットの家に赴いたり、自室でぼけーーっとして過ごす。予定が詰まっていないってことが新鮮な上、文句を言う人も誰も居ない。底知れぬ開放感が、とっても気持ち良かった。

 そんなことを思った午後のこと。



「わたし――――あなたはここには来ないと思っていたわ」

「え? どうしてです?」


 来客の知らせを受け、応接室に来たわたしを待っていたのは、婚約者候補の一人であるランハートだった。


「……だって、面倒でしょう? 王都からここまで結構距離があるし、あなたはバルデマーと違って、王配の地位にはさして興味がないじゃない」


 ランハートは寛いだ様子でソファに腰掛け、おかあさんが淹れた紅茶を優雅に飲んでいる。いつもの色彩豊かな派手な衣装じゃなく、街に溶け込めそうな比較的地味目な服だ。髪も珍しく後で一つに結んであって、どこか身軽な印象を受ける。面倒くさがりの彼がこんなことをするなんて、正直信じがたかった。


「――――――あっ! わたしが城に戻らないと、ランハートが継承者にって言われるから? 悪いけど、わたし戻る気ないから! 折角帰ってこれたんだし、ずっとここに居るんだか――――」

「僕、まだ何も言ってないでしょう?」


 ランハートはそう言って揶揄するように笑う。途端に何だか恥ずかしくなって、わたしはポッと頬を染めた。


「僕はただ、姫様に会いに来ただけですよ」

「……え?」


 真っすぐ顔を覗き込まれ、わたしは目を丸くする。ランハートは悪戯っぽく目を細めると、頬杖をついて首を傾げた。