「――――平民の生活を知る君主が出る――それは我が国にとって、とても大きなことです。貴族や王族にとって、本当の意味で国民に寄り添うことは難しい。姫様にもお分かりになるでしょう?」

「……そうね。本当にその通りだと思うわ」


 この数か月間で、わたしは嫌と言う程そのことを思い知った。
 ずっとずっと、陛下が歩み寄ってくれるって信じていた。わたしの気持ちを理解して、少しでも寄り添ってくれるだろうって期待していた。
 だけど実際は、両親への手紙を隠されたうえ、そのことに対する罪悪感すら抱いていなかった。

 きっと彼には一生、わたしの気持ちなんて理解できない。


「どうか戻ってきてください。私にはあなたが必要なんです」

「――――そう言えって陛下に命じられたの?」

「いいえ、私自身の意思です。寧ろ陛下は『放っておけ』と仰っていましたから」

「……そう」


 やっぱり陛下はわたしを追おうとしなかったらしい。ふぅ、とため息を吐くと、バルデマーは徐に立ち上がった。


「また参ります」


 そう言ってバルデマーは手の甲へとキスを落とす。ほんの少しだけ、心臓が跳ねた。