「……わたしが必要だなんて嘘よ。バルデマーが王配になりたいからそう思うだけ。
だって、わたし以外にも王位継承者はいるじゃない? ランハートやゼルリダ様は生粋の貴族なんだから、元々平民として育ってきたわたしより、ずっと適任だもの。
そりゃあ、これまで王配になるべく頑張ってくれたのに、申し訳ないなぁって気持ちはあるけど」


 事実、この数か月間、彼はわたしのために色々と努力をしてくれた。
 誰とも食事ができなくて寂しがってるわたしの所にやって来て、一緒にお茶をしてくれたし、話し相手になってくれた。お姫様扱いして、大切にしてくれた。
 それは、わたしを好きだからじゃなく『王配になるため』ではあったけど、頑張ってくれたことには変わりない。失われた時間は戻ってこないし、罪悪感を感じてしまうのは仕方がないと思う。


「私は――――――姫様が一番、次の君主に相応しいと思っています」


 バルデマーは何度か言葉を呑み込んでから、そう口にした。その様子に、思わず小さく笑ってしまう。


(バルデマーは嘘が吐けない人なのね)


 正直で誠実な、優しい人。思ったことを素直に口にするんじゃなくて、思っていないことは決して口にしないタイプ。多分、ランハートと違って、世渡り下手で不器用なんだと思う。

 だからこそ、我武者羅にわたしに向かってきたし、その野心を隠しきれなかった。完璧な見た目からは分からないそういう部分にこそ人間味を感じて、わたしとしては惹かれるものがある。


(まあ、だからといって、今更意味は無いんだけど)


 だって、わたしは城に戻るつもりがない。貴族とか王族とか関係のないこの場所で、『ただのライラ』として幸せに生きる。
 そうすれば、貴族である彼との接点は無くなるのだから。