「おはよう、ライラ」


 いつものように庭仕事から帰って来たお父さんが、そう言ってわたしのことを抱き締める。土塗れの汗まみれ。だけど、それがとても愛おしい。


「おはよう、お父さん」


 お父さんを抱き返しながら、わたしはまた、こっそりと泣いた。


「さあ、あなたも早く席に着いて? 貴族の方のお口には合わないかもしれないけど」

「いえ、俺は……」


 いつもと同じ朝。だけど、一つだけ、いつもと違うことがあった。
 皺ひとつない騎士装束に身を包み、部屋の片隅に控えているアダルフォの存在だ。


 昨夜アダルフォは、縺れる様にして抱き締めあったわたし達家族をたっぷり一時間、見守ってくれた。あんな真夜中に、三人が三人ともめちゃくちゃ無防備だったから、わたしが姫じゃなかったとしても危なかったと思う。だから、彼の存在はとても有難かった。


 その後、そのまま馬車の中で休むと言うアダルフォを、わたしが無理やり家の中に引き摺り込んだ。彼の部屋よりはずっと狭いだろう客間に案内して、そこで休むように伝えたのだ。
 そういうわけでアダルフォは、未だ我が家の中にいる。