「わたし、帰って来たんだ……」


 心臓がトクントクンと鼓動を刻む。嬉しさと興奮と――――それからほんの少しの不安。


(この街は――――お父さんとお母さんは――――――再びわたしを受け入れてくれるのかな?)


 そう思うと、足が竦むし息が上手く吸えなくなる。
 やがて、わたしの家の前で、馬車がゆっくりと停車した。


「お疲れ様でした、ライラ様」


 アダルフォが扉を開け、わたしをエスコートしてくれる。


「ありがとう、アダルフォ」


 きっと物凄く疲れているだろうに、嫌な顔一つせず、優しく微笑んでくれるアダルフォに、胸が温かくなった。


「どうしよう。お父さんもお母さんも、やっぱり寝てるよね……」


 事前に何も知らせていなかったのだから当然だけど、家の灯りは全て消えていた。きっと二人とも、ぐっすりと眠っているだろう。


「あーー……取り敢えず家来る? お前がこれまで使ってたベッドよりは数段劣るけど、馬車の中で寝るよりはマシだろう? アダルフォさんも、今から帰るのはキツイでしょうし、家はすぐそこですから」

「そうだね。お父さんとお母さんを起こすのも忍びないし、そうさせてもらうのが良いかも」


 そんなことを話していたその時、家の奥――――両親の寝室の灯りがポッと灯った。


(あっ……)


 もしかして――――そんな想いを胸に、わたしは玄関へと駆け寄る。そうしている間にも灯りが段々と増えていき、わたしが扉へ手を掛けた瞬間――――


「ライラ!」


 温かな声音と共に、わたしは両親から抱き締められていた。


「お父さん……」


 瞳からじわりと涙が滲む。


「お母さん……」


 パジャマから香る石鹸の臭い。久方ぶりに感じる人のぬくもり。小刻みに震えている二人の身体に、わたしは思い切り縋りついた。


「おかえりなさい、ライラ」


 その一言だけで、わたしには十分だった。


「ただいま」


 大粒の涙を流しながら、わたしはしばらくの間、お父さんとお母さんの腕に抱かれていた。