(わたしが居なくなったら後継者が居なくなるもんね)


 だけど、直系がいないってだけで、王位を継げる人間は他にも存在する。ランハートやゼルリダ様も、わたしと同じ、王の血を継ぐものだ。このままわたしが戻らなければ、二人やランハートの父親が次期後継者となるだろう。


(まぁ、ランハートは嫌がるだろうけど)


 元々己に正直で『王太子は面倒くさいから王配の方が良い』と言うような人間だ。だけど、ゼルリダ様は数年間の結婚生活で子どもが出来なかったから、別の誰かと再婚したとして、跡継ぎが生まれるかは分からない。そう考えると、次期国王として指名される可能性はランハートたちよりも低くなると思う。


(……それにしても、ゼルリダ様はどうしてわたしの手紙を届けてくれたんだろう?)


 わたしは彼女に嫌われている――――多分それは間違いない。それなのに、そんなわたしの願いを叶えてくれた――――その理由がわたしには分からない。


(本当は『ありがとう』って言えたら良かったんだけど)


 直接お礼を言う機会は今後訪れないだろう。せめて、手紙を送ろうか――――そんな風に思いながら、わたしは窓の外を眺めた。
 エメットたちと駆け回った懐かしい街並みが、少しずつ少しずつ近づいてくる。殆どの家が既に灯りを落としていて、シンと静まり返っているけれど、どこか温かくて優しい。