「ひっでぇ話だな、それ!」


 アダルフォが用意した馬車の中、わたしはエメットに事情を説明していた。


「じゃあ、これまでライラが俺達に向けて書いた手紙も、俺達がライラのために書いた手紙も、全部国王に隠されてたってこと?」

「そういうこと」


 思い出すのも腹立たしく、わたしは備え付けのクッションを握りしめつつ、眉間にグッと皺を寄せる。


「理由は? 陛下はどうしてそんなことをしたんだ?」

「そんなの知らないわ! だって、聞いたところで、到底理解なんて出来ないもの。
大体、送る気がないなら最初からそう言えって話じゃない? こっちは送られる前提で一生懸命に手紙を書いているのに、酷い裏切りだわ」


 言いながらイライラを募らせるわたしを、エメットは馬みたいに宥めた。


「しっかし、さっきのドレス姿を見た時は、ライラはすっかり変わってしまったんだなぁなんて思ってたけど、そんなこと無かったな」

「当たり前じゃない。人間、たったの数か月で変わったりしないわ」


 王宮にいる間色んなことを学ばせてもらったおかげで、知識だけはたくさん蓄積されたけれど、根っこの部分はそう簡単には変わらない。
 やっぱり人間は『誰から生まれた』かじゃなくて『どう育てられた』かの方がずっとずっと影響が大きいのだと思う。だって、わたしは陛下――――王家の血を継ぐものらしいけど、全然似てると思わなかったし、王族らしい考え方なんて出来なかったもの。

 今のわたしを形作ったのは生物学上の父でも祖父でもない。育ててくれたお父さんとお母さん、それからわたしの側に居てくれた人達だ。