「ええ。既に馬車の準備は整っておりますし、幼馴染の彼にも事情を説明し、そちらでお待ちいただいています」


 アダルフォの言葉に、わたしは目を丸くする。短時間でここまで準備を進めてくれたことが驚きだし、こんな風に協力してくれることが信じられない。
 普通の家出だって、大抵は引き留められるものだろうし、片棒を担ぎたくはないってことで放置をするものだと思う。だって、そうしないと責任問題になっちゃうもの。


「だけど、本当にそんなことして良いの? 後でランスロットや陛下から罰を受けるんじゃ……」


 わたしだって、元々は他の誰かを巻き込むつもりはなかった。だけど、意地を張っていられる状況じゃないし、助けてもらえるならありがたい。不安と期待を胸にアダルフォを見れば、彼は穏やかに目を細めて笑った。


「俺の主人は姫様――――あなたです。あなたがここを出ると決めたなら、その手伝いをする。騎士として当然のことです」


 そう言ってアダルフォはわたしのことをまじまじと見つめる。真摯な瞳。何だか目頭が熱くなった。


「だけどわたし、もうお姫様じゃないよ? それでも良いの?」

「もちろんです。我が君――――ライラ様」


 アダルフォはそう言ってわたしの手を握る。堪えていた筈の涙が一気に溢れ出した。


「急ぎましょう。これ以上遅くなっては危ないですから」

「――――うん!」


 気を取り直して、わたしは城を出るべく歩き始めた。