(おじいちゃんにとって結局、わたしは道具でしかなかった)


 死んでしまった王太子様の代わり。王室を保つためだけに存在する人形。喜ぼうが悲しもうがどうでも良くて、寧ろ感情なんて持つなって思われてる。十六年間も平民として育ってきたわたしが、そんなことを簡単に受け入れられるわけがない。辛くて、悲しくて堪らない。


「言っておくが、おまえにとっての『家』はこの城だ。両親は既に亡くなっている。お前の父親は亡き王太子であるクラウス。それ以外の誰でもない」

「表向きはそうかもね! だけど、わたしは違う! わたしの心は違う! 
わたしにとっての『家』はここじゃない! お父さんとお母さんが待ってるあの家なの! わたしの両親は、わたしを育ててくれた二人なの! 王太子様も『陛下』も、わたしの『家族』じゃない!
こんな場所、二度と来ないわ!」


 わたしはそう言って踵を返す。


「一体どこへ行くつもりだ?」


 その場から一歩も動くことなく、陛下はそう尋ねた。


「家に帰るの。帰って、ただのライラに戻る。国民には『姫だと思ったのは間違いだった』とでも発表して」

「……そんなこと、出来る筈がないだろう」

「十六年間もほったらかしに出来るのに、その程度のことが出来ないなんてあり得ないわ。王様が命じれば何でも出来るんでしょう? 人を人として扱わないことだって簡単だもの。
だけど、わたしはもう、陛下の言うことなんて聞かない。絶対、絶対聞かない!
連れ戻そうなんて思わないで。ここに連れ戻されるぐらいなら、反逆者として殺された方がマシだわ」


 その言葉を最後に、わたしは執務室を後にする。
 執務室の外には、アダルフォと、騎士のランスロットが待っていた。二人とも困惑した表情でわたしのことを見つめている。


「――――帰る」


 何処にと明言しなくても、二人には意図が伝わったらしい。ため息を一つ、わたしは身を翻した。