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(ふわぁ……すごい人)


 厳かな雰囲気に包まれた宮殿の中、わたしは一人息を呑む。
 今朝は早くから、わたしと同じか少し上ぐらいの女の子たちが数人部屋にやって来て、やれ着替えが、やれ食事がと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。


(これがお姫様扱いって奴なのかも)


 今後一生味わうことのない贅沢に、わたしはほんのり笑みを浮かべる。
 着せられた喪服も物凄く良いものだってことが一目でわかった。多分だけど、わたしのクローゼットの服が全部買えちゃうぐらい高価だと思う。


「姫様、どうぞこちらに」


 そんなことを考えていたら、昨日わたしを迎えに来た壮年の騎士がそう言って手を差し出した。葬儀の時間が近づいているのだろう。城内が俄かに騒がしくなっている。


「いえ……わたしはここから葬儀の様子を見守りたいなぁと思ってまして」


 先程から貴族たちに溶け込めるよう、わたしは最大限の努力していた。溶け込むってのはつまり、目立ちもせず、かといって浮きもしないようにする――――居ても居なくても変わらない状況を作る――――ということだ。


「何を仰いますか! 姫様はクラウス殿下の実の娘なのですから、こんな隅っこに居てはいけません! さぁ、こちらに」


 そう言って騎士はグイグイとわたしを引っ張っていく。どうやら選択肢はない、という奴らしい。