【短】夏のせい、君のせい。



「走る必要なかったでしょ」

「暑かったんだもん。仕方ないじゃん」



俺の顔の覗き込んでいたずらな笑顔を向ける。

走ったせいで余計に汗をかいた。

夏奈の突拍子もない行動には慣れたけど慣れない。


自動ドアが開いた瞬間に届いた冷気に、夏奈はとろんと溶けたような顔になった。

気が抜けた表情。
夏奈はおもしろい。

表情がコロコロ変わるから、見ているだけで楽しい。
どれだけ見ても飽きない。


だから俺は、夏奈のことをずっと見てきた。

見てきたんだ……。



「買ったよ~」

「あ、俺も」

日和(ひより)の分も買ったよ。水でいいでしょ?」

「あ、うん。お金」

「ふっ、いらないに決まってるじゃん。おもしろ~い」



クスクスと笑う夏奈だけど、何もおもしろくない。

幼なじみの女の子に奢ってもらうとか、さすがにダサすぎる。

夏奈の横顔を見ているうちに、夏奈は商品を選んで会計を済ませていた。

声をかけられるまで、そのことに気づけなかった。

ダサい。ダサすぎる。
救いようのないダサさ。

今すぐこの場から逃げ出したい。

それくらい、恥ずかしく思う。

けど、恥ずかしがっていることを気づかれたらもっと恥ずかしいから、平静を装って俺がいつも飲んでる水のペットボトルを受け取った。