俺が気になるのは、夏奈のほうだ。

気づいた上での夏奈の気持ちがわからない。

夏奈は、こんな俺を見てどう思っているのだろうか。



「……いつ?」

「来週かな。夏休み中に、いろいろ準備したいし」



夏奈の声は相変わらず淡々としている。

何を考えているのかわからない。

本当に、夏奈は引っ越すのだろうか。
俺と離れるのだろうか。


夏奈の言葉を聞いただけでは、実感が湧かない。

きっと、明日も実感なんて湧いていない。

もしかしたらドッキリかもしれない。
だとしたら、タチの悪いドッキリだ。

けど、今はタチが悪くてもかまわないから、嘘であってほしいと願っている。



「……そっか」

「うん」



俺の相槌には相槌で返される。

そのあと、ふたりの間に沈黙が流れた。

ネタバラシするなら今だ。

けど、沈黙が答え。
この気まずい空気が答え。

だけど、最初から夏奈がそんなタチの悪い嘘をつかないことを俺は知っているから、馬鹿な期待をするだけ無駄だった。