「ごめん、八つ当たりした」
完全に失言だった。
八つ当たりでも、ダサいプライドを守るためでも、言っていいことと悪いことがある。
「でも、夏奈もわかっただろ?」
ここに来るまでに目的もなく歩いた道のり。
俺が気づかないわけがない。
混乱して頭が真っ白になってすぐには気づけなかったけど、夏奈の決意と叫び、ちゃんと聞こえたよ。
「距離ができても、俺たちの関係に距離ができるわけじゃない」
どれだけ離れても関係ない。
そんなものに引き裂かれるような関係を作ってきた覚えはないから。
「俺たちは、距離で繋がってたわけじゃないでしょ」
「そうだよね」
「そうだよ」
手を伸ばして、夏奈の頬に触れる。
伝った雫をすくいとると、雲ひとつない快晴。
夏奈の笑顔がいっきに晴れ渡った。
触れられる距離にいなくても、俺たちの関係は変わらない。
「わたしもごめんね。信じてないわけじゃなかったけど、言えなかった」
「うん」
夏奈の気持ちは十分わかった。
この笑顔がすべてだ。



