「去年、婚約したんだろ?」

「何の話か、わからない」


 自慢じゃないけど、私には婚約者はおろか恋人が居たこともない。


 こんな人目の無いところで、ふたりきりの会話を続けていいはずはない。
 きっとクレアはひとりテーブルに残されて、やきもきしているだろう。


 クレアが待つテーブルに私が戻ると、少し遅れてカーティスも帰ってきた。
 案の定、クレアは私を睨んでいた。
 にこやかな微笑みの仮面が外れかかっていた。


「ブライズメイドの話、受けるわ」

 驚いたようにふたりが私を見た。
 断られる前提で頼んだのだ、とその表情でわかった。
 バカにするのも……と言いかけて堪えた。


 来年、気が向いたらブライズメイドでふたりの
結婚式を間近で見守るのも一興だ。
 それまでに、やはりこの胸の痛みが治まらない
ようだったら、ギリギリで断ってやる。

 何人でするのか聞いていないが、私が抜けて慌てて他の人を探すクレアを眺めるのも、また一興だ。

 

 クレアのことを嫌いじゃなかった、と思っていた。
 カーティスのことも、ずっと憶えていたいひと
だった。


 ……この夜までは。