目の前の女の瞳が。
 信じられない、と見開いていた。
 酔っていたのが、少し醒めた様にも見えた。


 ガーランド市商工会会頭夫人。
 それがこの女の肩書きで、唯一の長所。
 それがなくなれば、この女には何も残らない。


 この女、スタール夫人は俺に媚薬を盛った。
 夫人にとって残念なことに。
 俺には大抵の媚薬は効かない。



 中等学園の2年生、14歳の誕生日の朝。
 珍しく俺の部屋に来て。
 真面目な顔をして、親父は俺に言った。


「婚姻は利に叶う相手と。
 それまでは好きにしていい。
 だが、決して中出しはしない」

「……何、朝から言ってるの……」


 それは父というよりは、祖母からの教えだったらしいが。
 内容の下品さに自分の耳を疑った。


「俺は15の誕生日に言われた。
 お前の方が俺より早く、そういう事になりそうだから。
 子種をあちこちに撒かれては困るからな」

「もう少しオブラートに包んでくれても。
 キーナンには、いつ言ったの?」

「アイツはお前と違う。
 先週友達の家に外泊すると言っていたのに、帰宅したお前から香水の匂いがしたと母さんが心配していたぞ」