腹が立つけど、指輪も自分で用意しないとね。
 そうだ、グレイグがプレゼントしてくれた指輪がある。

 落としたらまずいから、内側には何も彫られていないのが幸いした。
 これをカーティスから受け取るエンゲージリングにしよう。


 ウチの家族は婚約間近のカーティスが挨拶に来ないことを不満に思っていた。
 彼は披露パーティーまで忙しいのだ、と誤魔化していた。
 それで、下の兄のキースに指輪を預けた。


「カーティスは忙しすぎて、直ぐにモノを失くしてしまうの。
 当日までお兄ちゃんに預かっていて欲しい、って」

「それはいいけど、ちょっとだけでもこっちに顔出せないのか?」

「パーティーさえ無事に終われば、時間を取って欲しいと頼まれてるの。
 その時はお手柔らかにしてね?」


 年齢の離れた妹に、兄達も弱い。
 スッキリと納得はしていないが、キースは指輪を預かってくれた。


 招待客達の前で、兄から差し出された指輪を、
カーティスは拒否出来ない。
 私の計画ではそうなる筈だった。

 本音はどうであれ、人前ではにこやかな笑顔を絶やさないカーティスだから。



 私はちゃんと確認するべきだった。
 契約婚ではなく偽装なら、そう彼は言ったのだ。


 マリオンと会う時だけ、とカーティスは言ったのだ。
 もう、それは終わっていた。