流行りの『契約婚』の話をカーティスにしたら、後日彼から了承された。
 勝負だと思って……無理だろうと、笑われるだけだろうと。
 覚悟して申し込んだのだ。
 それを彼は受け入れた。




 小説や演劇での契約婚の定石は。
 愛のなかったふたりは、いつの間にか本当に愛し合うようになる。
 仮初めでも、恋人として、婚約者として、夫婦
として。
 共に時を過ごせば……私達も、きっと。


 馬鹿みたいに、マリオンに操を立てているカーティスは女性の身体に慣れていないはず。
 肉体関係に持ち込めたら、きっと彼は私に夢中になる。


 私の夫になれば、会えるなんて言ったけれど。
 そんなに何度も会えるわけはない。
 それほど親しくない私とマリオンが夫を交えて
会うなんて、一生の内の何回か。

 それだって一度だけ会わせたら、以後はその機会を理由を付けて潰せばいいのだ。



 休みの日に誘ったら、会える確率が高くなってきたカーティスが私に笑いかける。


「契約婚じゃなくて、偽装って事にしようか」

「偽装?」

「こっちはマリオンに会う時だけでいいから。
 君の方は職場や家族に対してか?」

 
 機嫌の良い彼に、見とれてしまう。
 こんな日をずっと、待ち望んでいたの。