男の俺から見ても、あの貴族の男は最上級の感じがした。
マリオンの肩を抱いて何か囁いて、ふたりで笑っていた。
もう2年も前の事なのに、昨日の事のように思い出せる。
卒業式の前日、コーカスの教会の石段に座り、真夜中までマリオンを待った。
大学まで会いに行った日はホテルで夜が明けるまで部屋で待った。
ドアをたたくノックの音を聞き逃したくなくて食事にも出ず、浴室に移動さえしなかった。
今もそうだ。
他の男と婚約したと聞いても、それでもどうして彼女への想いを断つことが出来ないのか。
「提案したい事があるんだけど。
ねぇ私達、契約婚しない?」
「……契約婚?」
「貴方、マリオンが好きなんでしょ? 諦めたくないんでしょ?
協力してあげるわ」
クレアが俺の手を握ってくる。
いつもなら触れられそうになると、事前に察知
して躱していた。
だが、今は素早く動けなかった。
「小説とかで読んだことない? 契約婚。
あら、ここ怪我をした跡があるのね?」
クレアが握った手を一旦離して甲を撫でたので、慌てて右手を引いた。
微かに残る傷跡を触れられて、カッとなった。
この傷跡に、俺の右手に触るな。



