指定された場所は高級マンション、あかりは最上階を仰ぐ。

 春と言えど朝は肌寒い。トレンチコートを羽織ってきて正解、ポケットへ手を突っ込む。と、中から折れ曲がった名刺が出てくる。
 じっとそれ見つめるうち、約束の時間となった。

 マンションは入口に警備員を配備し、住人側からセキュリティ解除がなされないと中に入れない仕様だ。名刺に部屋番号の記載がない為、ヨリと連絡を取る方法は電話しかない。
 最初のコールが空振りに終わり、待たされる事となったあかりは近くの公園へ移動する。

 ベンチに座ろうとしたが遊具の利用者が少ないのに気付き、久し振りにブランコを漕ぎ、滑り台をすべって、ジャングルジムに登る。なんだか公園を征服した気分になれ、すがすがしい。
 ただ無職のアラサーが童心にかえる姿は傍からみると少し怖い。

 そして、太陽が昼の位置に辿り着くとヨリから折り返しの着信が入る。

「誰?」

 開口一番、これだ。

「あの、私は昨日カフェで」
「カフェ?」
「9時にマンションに来てと呼ばれたんですが?」
「はぁ」

 間があく。

「あぁ! 9時ってさ、夜の9時なんだけど……ま、いいや。今から部屋まで来てよ」

 鍵開けておくと告げ、一方的に通話が切れる。ヨリとは住む世界が違うと思ったが、時間軸もずれているようだ。
 待たせておいて詫びの一言もないのにモヤモヤしつつ、指示通りマンションへ向かった。