傷口を刺激するよう繰り返され、あかりは取手を握り締めカフェオレを揺らす。
 堪えるんだ、歳下相手にムキになるのはみっともない。

「言われていても君に関係ないですよね? そもそも、どちら様ですか?」

 わざと白黒つかない答えで返し、疑問を添えた。

「え、オレ?」
「あなたしか居ませんが?」
「オレを知らない?」

 敬語でやりとりするあかりに対し、青年はカジュアルな振る舞いを崩さない。何処の誰か問われると傾げながら名刺を差し出す。

「オレはゲーム実況配信者のヨリ。無理ゲーって聞くと職業柄クリアしたくなって声掛けたんだ」

 あかりが名刺を携帯している事に目を丸くすると、身を乗り出した。ぺろっと舌を覗かせ、悪戯な表情で自己紹する。

 シャンプーか香水か、良い香りが届く距離感にあかりは固まったまま。

「つまり恋人としてのイチャイチャと、人生のパートナーとしての衣食住。それをひとりに求めるのが無理ゲーって意味でしょ? こんな事言われたら悔しくない?」

「いや、まぁ、それは……」

 悔しいと聞かれたら悔しいし、悲しいし、寂しくもあるが、あかりはまだ失恋を受け止め切れてない。しかも畳み掛けるようにヨリに混乱させられる。