人気メイクアップアーティストに続き、世界を股に掛けるバイヤーが登場。

 結婚情報誌の表紙を飾ったウェディングドレスからパリコレデザイナーの未発表ドレスまで豊富に取り揃え、好きなデザインを着て良いと言う。

(わぁーーキレイ)

 あかりは純白の世界観に胸を押さえ、感動が言葉にならない。内心、相手が居ないのにドレスを着るのは恥ずかしかったが、いざ本物を前にすると憧れの気持ちが勝る。
 一着一着、丁寧に触れてはうっとりした。

「選べた?」

 通話を済ませたヨリが戻ってくる。
   
「そんな短時間で選べません! どれも素敵で迷いますし、どれを着ても似合わなそうで尻込みします」
「好きなのを着たらいいって。ウェディングドレスが似合わない女性は居ないよ」

 さらりと言い切り、取り付く島もない。晴れ舞台の衣装なのだから似合う似合わないじゃない、その主張は最もだ。

「一緒に選んで貰うのは迷惑ですか?」

 ヨリやバイヤーを待たせるプレッシャーで、おずおずと切り出す。

「オレが選んでいいの? じゃあこれにしようか」
「……それって手前のドレスをとっただけですよね?」
「ほら、怒るなら自分で選びなって。オレがお姉さんと結婚する訳じゃないんだから、オレの好みは関係ないでしょ?」
「怒っていません! でも企画上は彼氏ですよね?」
「企画だからこそ、自分が好きなのを着たらいいんだってば!」

 この言い分も理に適う。デザインや質量、金額面を考慮しないで純粋に着たいドレスを着れば良い。

 しかし殊にウェディングドレス選びにおいて、そのような道理は通用しにくい。最終的に自分が気に入ったドレスを着ると決まっていても、共に選ぶ過程を経なければ乙女心は着地しないからだ。

「視聴者はウェディングドレスを選ぶシーン、必要かも知れませんよ? どういうドレスが好きか知りたいと思います」

 あかりはビデオカメラを意識した言い回しをする。ヨリもリスナーを引き合いに出されれば無碍にできない。

「……これは? 胸元の大きなリボンがお姫様みたいで可愛い。オレはこういうの好き」

 今度は真剣に一着を推す。

「確かに可愛いです!」
「そ、そう? なら、これで」
「でもこちらのレースも大人っぽくて素敵じゃないですか?」
「は? オレのアドバイス要らなくない? そっちにしたらいいじゃないか!」

 ーーこうして図らずとも、あかりとヨリはドレス選びあるあるを発生させた。