ウェディングドレスとドレスを着る場所を確保したとの連絡が入り、育成は二段階目【希望を叶えて自信をつけさせる】へ。

 まさか昨日の今日でドレスが手配できると思わず、あかりは引っ越しの荷造りで寝不足気味。

 あぁ、どうして人は片付けの最中にマンガを見付けると読みふけってしまうのか。罪悪と後悔で浮腫む顔が鏡へ映し出される。

「ひどい顔だよ、お姉さん」

 ビデオカメラを構えたヨリが厳しい声を投げ掛けた。彼の今日の装いはフォーマルなジャケット、髪をハーフアップして抜け感を演出している。

「す、すいません」
「体調管理はしっかりしてね」
「はい、以後気を付けます」

 あかりより忙しいはずなのに若さか、プロ意識か、はたまた両方か、ヨリの肌ツヤは良い。あかりは居たたまれず身体を丸めた。

「まぁまぁヨリもそんな怒らないの。今日は彼氏として来てるんでしょうに」
「彼氏って言っても契約、企画上。写真撮影があるんだよ? 見てよ、お姉さんのあのクマ」
「嘆かないで大丈夫、アタシに任せて頂戴!」

 あかりをシンデレラに変身させるのは、こちらの有名メイクアップアーティスト。芸能人の顧客を抱え、半年先まで予約が取れないサロンを経営する腕にかかれば、シミ、くすみ、クマなど一瞬で消え去る。

「にしてもヨリがこういう企画するなんて意外。ゲームはやらないの? 案件ばっかりやってない?」

 一人称をアタシにしているのは女性客が打ち解けやすくなるからで、オネェではないそうだ。

「ゲーム配信はやりたい。でも、なかなか時間が取れなくてさ」
「あー、社長ともなると会社の利益を優先しないといけないわよね。偉くなれば好きな仕事だけやれると思ってたけど、現実はそうじゃない。まぁ、この手の企画は協力出来るから遠慮なく相談して? アタシ達、友達じゃない!」

 定休日に店を開き、力添えを申し出るあたり仲の良さが伺える。

 メイクは着々と進行しリップを引いた時、誰かの携帯が震えた。
 ヨリはディスプレイをみ、無言で場を離れていく。

「企画でもヨリの彼女になれるなんてラッキーね。ヨリにドレスを着せて貰えるなら札束積む娘が沢山いるわよ」

 ヨリが居なくなると笑顔を消し、あかりへの眼差しも冷たくなる。
 あかりの頬へ中性的な顔立ちを近付け、財力を嗅ぎ分けるよう鼻を鳴らす。

「札束……」
「ヨリに可愛くしてあげるとか、モテモテにしてあげるとか言われても信じちゃダメだからね」

 ヨリスのブログが浮かび、彼女達なら有り得ない話ではない。

「あなたとヨリじゃ到底釣り合わないって意味。くれぐれも勘違いしないように忠告してあげたのーーはい! おしまい。次はドレス選びよ」

 化粧を終えたあかりはベルトコンベアー式に隣の部屋へ送られた。