そしてピザが届く前に2人は衣装を変える。

「こんなオシャレな服を持ってるんですね? 」

 あかりは花柄のワンピースとヨリを交互に確認した。シャツとデニム程度を想定していたが、部屋着ではない物が用意される。
 もしかして入室を許されなかったあの部屋はーー

「それはアパレルブランドとコラボした時に作ったやつ。人の服をお姉さんに着せない」
「すいません、てっきり彼女や元彼女の物だと勘違いしてしまいました」
「うん、白状しなくても思いっ切り勘違いしてる顔してた。オレ、他人を部屋に入れるの嫌なんだよね。ここは事務所でもあるけど、打ち合わせを外でやるくらい」

 つまりあかりは倉庫から事務所へ案内されたのか。使用頻度が低くてもオフィス家具は一式揃い、急なあかりの訪問に対応している。

 あかりとて、ヨリのプライベートに無理やり踏み込む真似はしない。が、こうも線引されると心の距離が出来てしまう。

 現在、あかりとヨリの共通点は好きなピザがマルゲリータのみだ。

「今度はお姉さんが質問してみたら?」
「質問?」
「オレを知る為に質問してみて。あ、ここはボイスレコーダー回すよ」

 ウィンクするヨリはスウエットからスーツへ着替え、来客用のソファーでふんぞり返って足を組み直す。

 実はこのポーズ、ヨリが出演するCMと同じアングル。あかりも既視感があるのか、はっと口に手を当てた。

 人気配信者ともなると有名企業が資金援助や自社製品の提供して活動を支援する。ここはあかりがスーツに触れ、ヨリがスポンサーに触れる流れを作りたい所だ。

 ヨリのスマートに案件をこなす技術は業界で評価が高い。今回は素人のあかりに台本を読ませても棒読みすると判断。動画でなくボイスレコーダーを使用する。
 
「配信者になった切っ掛けは?」
「ーーうわ、面白味のない質問。それ何億回も答えた、別のにしてくれない?」

 ヨリは上着を仰ぐ。

「好きな食べ物とか?」

 ネクタイを緩める。

「メロンソーダーって設定。これも何億回答えたし。ってか、質問内容を質問しないで。他に無いの?」

 ついにスーツを指差す。

「そのスーツ……」

 ピンポーン、インターフォンが響く。

「彼が別れ話する時に着ていて、私がプレゼントしたんですよ」

 後日、ヨリにはピザチェーン店からの案件が舞い込むのだった。