決意の一杯を飲みおわったら、始発を待たずに家まで歩いて帰ってみよう。
家についたらすぐにシャワーを浴びて、長らく溜まってしまったなにかを洗い流したい。
菖悟さんに合わせて使っていたサンダルウッド系の香りがするシャンプーじゃなくて、元々だいすきだった、ゼラニウムとペアーの香りがする私らしいシャンプーを身に纏って。
真琴に会いにいく。
そして、ゆるしてもらえなくても、ごめんねを伝えよう。私が間違ってたって。
菖悟さんには、家に帰るまでにLINEをしておけばいいやと、それくらいに思えた。
別れにLINEなんて、軽薄すぎると思われるかもしれないけど、不倫関係だった私たちに、そんな情は必要ない。
たかが数時間で、そんな風に思えるようになったのは、間違いなく、ダイキリを教えてくれたこの人のおかげなのだ。
最初に感じていた、ミステリアスな微笑みの貴公子という雰囲気は全くもって消え去った、ただ、美形なだけの、まっすぐで飾らないひと。
「ねぇ、菖悟さんとじゃなくても、またきてもいい?」
「いやいや、この流れでまたアイツ連れてきたらさすがに見放すわ」
「あ、そっか!」
「大体週末にはいるから、きたら名前呼んで」
端正な顔をして、ケラケラと笑う姿に、私はつい顔をしかめたくなる。
ただ、ちょっと間違えただけなのに。
というか。
「まって、名前知らないし、ちょっと笑いすぎじゃない?」
「あぁ、そっか、たしかに。
いやほんと、最初のときも思ったけど、なんかちょっとズレてるとこあるよね、きみ」
「きみじゃなくて、緋奈子(ひなこ)!」
「黄身じゃなくて、雛子、って、ほらもうなんか持ってるわ!」
「ねぇ、人の名前いじるとかひどすぎない?
ひよこの雛じゃなくて、緋色の緋だし。
そういうきみの名前は、そりゃもうため息がでるくらいに素敵なんだよね?」



