彼は生まれたときから、…もしかしたら、お母さんのお腹のなかに命を宿したその瞬間から、不倫の残酷さと人間の愚かさを目にしてきた。
燃え上がるような自分本意の熱の先に待つ、現実的な負担やしんどさも、全部、知っていて。
だからこそ、放っておけないんだ。
私みたいに、お母さんの二の舞になりそうな人を。
「…私も、いい表情(カオ)できるひとに、出会えるかな」
ずっと、踏み切れなかった決心をひとつしてから、ひとくち喉に流したダイキリはサッパリとしていて、鼻にぬける柑橘の香りが前をむかせる。
最後にやさしく広がったあまさは、彼がくれた、やさしさなのかもしれない。
「そう思えたら、夜明けはすぐだよ」
知らず知らずのうちに、暗い方へ暗い方へと歩いていってたことを自覚してから、人は、ヒカリを目指せるんだと。
むしろ、自覚したときには、既にヒカリへと向かえているんだと。
ぽんっと、背中を押してくれるようなひと言に自然と笑みがこぼれて、お兄さんと私、どちらともなく乾杯をした。
小さくつよく、弾むように響いたふたつのグラスの音は、明るい明日を教えてくれる気がする。
「決意の一杯として、次はなににする?」
「うーん。ジントニック飲みたくなってきたけど、それはやっぱり真琴との大事な一杯にとっておきたいから、やっぱりダイキリで!」
「いいね、いい選択だと思うよ」



