「では、父を事故に見せかけて殺したのはやはり…」
「あの男だよ。ベーリード子爵だ」

三人は黄金がきらめくこの場所で、話のすり合わせを行っていた。と言っても、マーシャはちんぷんかんぷんで主に二人が話しているにすぎない。

「あの、どうして私を助けてくれたんですか?」

マーシャは思いきって小男に聞いてみた。小男は後ろ頭をぽりぽり掻くと、何でもないかのように話した。

「お嬢さん、大人しくしてただろ」
「え? ええ」
「だからだよ。約束を守っただけだ」

この人、実はいい人なのかもしれない。
マーシャはそう思いそうになったが、小男の次の発言でやっぱりないなと思いなおした。

「と言うか、本当に“触れたら黄金になる力”があるのか確認したかっただけだ…しかし、黄金に触れるだけで自分も黄金になるとは、お前さんたち、結婚資金にできなくて残念だったな」

リセラドがすらりと剣を抜いたが、瞬きをする間に小男は消えていた。いや、声だけは響いていた。

「騎士殿よ、そこのシスターと結ばれたいなら、ちゃんと名乗らねばダメだぞ。リセラド・ルネ・フィルテリウスとな、ハハハ…」

マーシャは目を見張った。

「…ああ、その、シスター。これには深い訳があるのです。
 …私の母はかの男の子孫でして、ある決まりを受け継いでいたのです。
 『男児が生まれたなら、十二歳までは女児として育てるべし』
 悪意から身を守るためだったのでしょうね。父にも生まれた子が男だったらそうしてくれと頼んでいました。
 その、それで、あのベーリードによる事故で、私は間一髪で助かり、騎士団の養成所に入ったのです。
 …まさか、貴女と再会するとは思ってもみませんでしたがーー」

マーシャはリセラドの言葉が終わる前に、彼にもう一度抱きついた。リセラドは胸元が熱く濡れるのを感じて、メモとを和らげた。

「おかえり、ルネ。ありがとう、騎士様…生きていてくれて、本当に嬉しい」
「マーシャ…」

リセラドはマーシャを優しく抱きしめた。マーシャはもう、青い顔で震えることはなかった。

その後、ベーリード子爵が待ち構えていた騎士団に逮捕されたり、“狼の目”が壊滅に追いこまれたり、二人が結婚したりしたが、それはまた別の話ーーー。

ーー完ーー