「でも、このあいだ加藤さんと腕組んで嬉しそうに一緒に帰ってましたよね?」
「あれのどこが嬉しそうなんだよ。無理やり飲みに連れ去られたのに。――ていうか見てたのか?」
「……みんな目撃してましたよ。仲良さそうだったって」
そう言うと先輩は、またも頭を抱えたまま下を向くと今度は大きなため息を吐いた。
変なこと聞いたから怒ったのかも……と少し不安になる。
「あぁ、だから翌日みんな変な顔してたんだな。まったく……」
先輩は呆れた感じで顔だけ上げると、少し困ったような表情になった。
「あれは加藤が面白がって、加藤の旦那と役員の木村さんと営業部長が飲んでるところに無理やり連れてかれたんだよ。んで俺はほぼ加藤の子供の面倒見させられてただけ」
な……なにそれ。
子守のために腕まで組んで連れて行くって。
でもそれだけ仲がいいってことじゃないの?
「で、でもみなさん先輩が加藤さんとより戻したとか不倫したと思ってますよ」
「――はぁ? マジか。ほんと迷惑だな。ったく、加藤は悪ノリが過ぎるんだよアイツ」
「でも、付き合ってたのは本当ですよね?」
そう言うと、先輩は眉間にしわを寄せて私を見返した。
何か言いたげな顔をしたけれど、コーヒーの入ったカップを手に取って残りを一気に飲み干していた。
「最初の半年はな。それ以降はアイツの恋愛相談に乗ってただけ」
「恋愛……相談? 加藤さんが二股したあとに今の旦那さんに乗り換えたんですよね……」
こんなこと聞くなんて失礼にも程があるのは分かってるけれど、聞かずにはいられない。
「お前、どこまで聞いてんだよ……ったく。まぁアイツは誤解されやすいタイプだから仕方ないけど、その噂はほとんどがデマだからな。あんまりアイツのこと悪く言わないでやってくれ」
「あ……」
先輩は加藤さんを擁護するように私の言葉を遮った。
本当その通りだ。私だって聡太の悪い噂なんて聞かされたらいい気はしない。
それに、男女のことは本人たちにしか分からない事情もある。
それを知りもしないで、勝手な憶測にみんなが信じて悪い噂まで流して……。
当事者の先輩から真実を聞いてしまうと、なんだか加藤さんが可哀そうに思えてきた。
だから木村役員のところへ泣きついてたんだろうな。



