先輩、お久しぶりです


 そんなことを聞いたところで私の勝手な自己満足に過ぎない。それに先輩からしたら余計なお世話だと怒りたくもなるだろう。
 でも、このあいだからずっと消したくても消せないこのモヤモヤを、払拭したい気持ちのほうが上回った。


 先輩は視線を逸らすことなく、私を見つめ返している。


「会ったなら知ってると思うけど、あいつ既婚者だからな」


 それは会社の人みんな周知してることだよ。
 肩透かしな返答に、張りつめていた気持ちが一瞬で崩れそうになる。
 そうじゃなくて……。


「結婚してても、好きな気持ちは忘れられないものじゃないですか」


 そう言うと、なぜか今度は先輩が神妙な面持ちに変わった。


「千春は忘れられないのか?」

「何をですか?」

「今日会ったのって、お前の元カレだろ?」

「――っ!」


 隠したいわけじゃなかったけれど、先輩は気づいてたんだ聡太のこと……。


「彼女といるところ見て辛くなかったのか?」

「あ……いえ、私はむしろ祝福したい気持ちなので」


 それが本心なのは間違いない。
 でも先輩は私が早く立ち去ったのが聡太を見て辛くなったと勘違いしたんだろう。
 私としては先輩に気づかれたくなくて……それに聡太に『彼氏』と言われて動揺したのを悟られたくなくて去った、と言ったほうが正しいんだけど。


「なら、俺も同じだよ」

「同じって?」

「未練もないし、好きで付き合ったわけじゃないから」


 ――え?
 好きで付き合ったわけじゃないって、どういうこと?
 だったらどうしてあんな嬉しそうな顔してたの?