「じゃあみなさんお暇なんですね」

「ふふふふ、誰かさんが今すぐ帰ってくれれば捗りますよ」

「あら、私がいてもいなくても捗らないんじゃないですか?」

「少なくともイライラしないかしら。でもこれ以上長居されると業務に支障が出てしまうかも」


わー……。
あからさまに攻撃し合ってるのに淡々と会話してるから余計に怖い。
誰も止めに入る勇気もなくてハラハラドキドキしていると、彼女はさらに笑顔になった。


「そうしますわ。私もこんなところに1秒でも長居したくないので。ところで木村役員は今日いらっしゃいます?ちょっと挨拶していきたいの」

「あと30分後なら空いてますよ」


すかさず別の先輩が応えてくれた。


「良かった。じゃあ子供が起きたら悪いので失礼しますね。みなさんお元気で〜」


彼女は顎を少し上げながら、くるりと反対方向へ向きなおって作り笑顔のままドアから出ていった。


息を潜めていた一同はやっと呼吸できた気分になったけれど、それよりなんだったんだろうあの人は。
たった数分でこんな荒れた空気を残していくとは……強者すぎる。


一方の徳田さんは秘書室のドアがパタリと閉まった途端、椅子にどかっと座って分かりやすく不機嫌そうにした。


「ったく!何しに来たのよアイツ!ほんっと癪に触るわー!」

「久々にヤバかったね」

「相変わらず上から目線でムカつくったらありゃしない!」

「今後一切来ないでもらいたいね……」